ブラジル・リオデジャネイロのジャズシーンにおける異端児アントニオ・ネヴェスと、同じくカリオカ(リオっこ)のパーカッション奏者チアギーニョ・シルヴァによるデビュー・コラボレーション・アルバム『Ladeiras De Santa Teresa』。トラッド・サンバとそのルーツにあるディープなアフロブラジル音楽、サンバジャズの狂騒と瀟洒で力強いブラスサウンドが融合したグルーヴ感あふれる作品だ。
2021年にリリースされたアルバム『A Pegada Agora E Esssa』で高い評価を得て以来、トロンボーン奏者兼ドラマーとして活躍し、国際的なブラジル音楽シーンの中心人物であり続けているアントニオ・ネヴェス。自身名義の作品のみならず、アナ・フランゴ・エレトリコの『Little Electric Chicken Heart』、ブルーノ・ベルリの『No Reino Dos Afetos 2』、バーラ・デゼージョの『Sim Sim Sim』などにも参加。父エドゥアルド・ネヴィスと同じく、伝統と革新が渦巻くリオの音楽シーンにおいて当代きっての器楽奏者として、彼もまた欠かせない存在だ。
一方のチアギーニョ・シルヴァも、パーカッション界の巨匠ホベルチーニョ・シルヴァの息子だ。ジャズのイディオムを踏まえたアフロブラジル色の強い演奏で、アルトゥール・ヴェロカイの『Arthur Verocai』(1972年)、ミルトン・ナシメントとロー・ボルジェス『Clube da Esquina』(1972年)、ガル・コスタの『India』(1973年)などに参加してきただけでなく、〈Carmo〉や〈Philips〉MPBCシリーズなどに残した自身の作品も高く評価されるホベルチーニョ。息子であるチアギーニョもまたマルセロD2、ガル・コスタ、リニケル、アリシ・カイミらと共演。本作『Ladeiras De Santa Teresa』を聴けば、彼がシルヴァ家の後継者として、濃密なブラジリアン・インストゥルメンタルの伝統を継承していることは明らかだろう。
2023年に〈Mr Bongo〉がリリースしたリオデジャネイロをテーマにしたコンピレーション『Hidden Waters』にも収録された「Das Neves」から本作は幕をあける。エルメート・パスコアルらとも共演する弟のエドゥ・ネヴィスとアントニオのネヴィス兄弟による燃えるようなブラスセクション、ドラ・モレレンバウムの作品にも参加するルイス・オタヴィオのエレガントなピアノ、そしてチアギーニョの脈打つサンバブレイクが見事に融合したこの曲は、まるでエヂソン・マシャードのコンボが現代に蘇ったかのような濃密さを持つ。と同時に現代的な息吹も着実に感じさせる一曲で、この続きを聴いてみたいと思わせるに十分なインパクトだった。そんな期待に違わぬ内容で、伝統と革新のスパークはアルバム全体を通して続く。なかでもネヴェスがドラムをダブルで担当し、アレンジャーとしての独創的で大胆な手腕を発揮する「Fendas Vocais」や、ストリートアーティスト、ミュージシャン、そしてラッパーとしても活躍するジョカが参加したアルバムのハイライトともいえる「Viagem de Trem」あたりは実に見事だ。
アルバムタイトル「Ladeiras De Santa Teresa(サンタテレーザの丘)」は、リオデジャネイロの有名なサンタテレーザ地区に敬意を表して名付けられたのだという。象徴的な街並みを一望できるボヘミアンな居住地として有名なサンタ・テレーザの精神は、このアルバムに見事に体現されている。曲がりくねった路地や石畳の道に息づくジャズとサンバの歴史が、本作には凝縮されているのだ。
https://antonioneves.bandcamp.com/album/ladeiras-de-santa-teresa
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